熱中症対策について 2026年度版
熱中症とは
熱中症とは、高温多湿な環境下において、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れ、体温調節機能が破綻することで生じる、さまざまな健康障害の総称です。 主な症状には以下のようなものがあります。
- めまい、失神
- 筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)
- 大量の発汗
- 頭痛、気分不快、吐き気、嘔吐
- 倦怠感、虚脱感
- 意識障害、けいれん、運動障害
- 高体温
これらは重症化すると命に関わることもありますが、適切な予防と迅速な対応により重症化を防ぐことが可能です。(出典:熱中症環境保健マニュアル2008)
熱中症発症のメカニズム
熱中症は主に以下の過程で発症します。
- 暑さにより体温が上昇し、体温調節機能が乱れる
- 熱の放散が追いつかず、体内に熱が蓄積する
- 脱水や血流低下により、臓器機能に障害が生じる
剣道における熱中症リスク
剣道では以下の要因などにより、熱中症のリスクが高まりやすいと言われています。
- 剣道具や剣道着の着用により熱がこもりやすい
- 屋内であっても換気が不十分な場合、高温環境になりやすい
- 「暑中稽古=鍛錬」という意識により、無理をしやすいの放散が追いつかず、体内に熱が蓄積する
熱中症が起こりやすい状況
- 時期
気象庁のデータによると、2025年の横浜市の最高気温は以下の通りでした。
3月 | ██████████████████ 25.7℃
4月 | ████████████████████ 27.2℃
5月 | █████████████████████ 28.3℃
6月 | ███████████████████████████ 34.3℃
7月 | █████████████████████████████ 36.1℃
8月 | ████████████████████████████████ 38.1℃
9月 | ████████████████████████████ 35.6℃
10月 | ███████████████████████ 30.1℃
(気象庁ホームページ https://www.jma.go.jp/jma/index.html よりデータ改変)
4月の時点で27℃を超える日があり、春先からすでに熱中症リスクが存在していました。2026年も4月上旬で25℃を超えており、今年も早期からの対策が必要です。特に5月以降は、気温上昇に伴い脱水や軽度の熱中症が増加するため、可及的速やかに開始することが重要です。
- 環境要因
以下のような環境要因が発症リスクを高めるとされています。
・高温・多湿・無風は発症リスクを高める
・道場は熱がこもりやすく、風通しが悪いことが多い
・湿度が高いと汗が蒸発しにくく、気温が30℃未満でも発症する
- 年齢・体調
年齢や体調など個人の身体的条件による影響も受けると言われています。
・小中高生、高齢者はリスクが高い
・疲労、睡眠不足、体調不良時は発症しやすい
・肥満傾向のある人は体温が上昇しやすい
- 稽古の強度
稽古内容や運動強度による影響も受けると言われています。
・剣道具着用での高強度稽古は体温上昇を招く
・休憩の少ない稽古は危険性が高い
・掛かり稽古など短時間でも強度の高い運動には注意が必要
- 水分補給の困難性
面やフェイスシールドにより、稽古中の水分補給が制限されるので、適宜面を外して水分摂取をすることが必要です。
熱中症による事故防止対策
- 指導者の役割
指導者には以下の注意や対策が求められます。
・適切な休憩と水分補給の徹底
・熱中症の兆候の早期発見
・緊急時対応(連絡体制・搬送手段)の整備
- 環境管理と稽古の工夫
稽古環境については、以下のような環境整備が望まれます。
・エアコンの活用によりリスクを低減する
・扇風機は、気温が体温を上回る場合には十分な冷却効果が得られない場合がある
・涼しい休憩場所を確保する
・適宜剣道具を外し、体内にこもった熱を放散する
- 身体冷却
体温上昇時の冷却方法については、下記の方法が有効です。
・冷たい飲料やアイススラリーで体内を冷却する
※アイススラリーとは、細かい氷と液体が混ざったシャーベット状の飲料で、通常の冷水よりも効率よく体温を下げる効果があります。
・アイスパックや送風により体表からも冷却する
- 暑熱順化
人は暑さに徐々に適応(暑熱順化)することで、発汗や体温調節機能が向上します。しかし春先は順化が不十分であり、25℃程度でも熱中症が発生する可能性があります。暑熱順化のためには、下記に注意してください。
・軽い運動や入浴で汗をかく習慣をつける
・無理のない範囲で暑さに体を慣らす
・暑熱順化は1〜2週間程度で形成されるが、継続が必要
- 稽古中の判断
下記のような環境の悪化時や体調不良時には、稽古を中止する判断をすることも指導者には求められます
・指導者は参加者の状態を継続的に観察し、兆候を早期に把握する
・体調不良時や急激な気温上昇時は中止を検討する
暑さ指数(WBGT)の活用
WBGTは気温・湿度・輻射熱などを総合評価した指標です。下に提示した様なハンディ測定器の活用が推奨(JIS Z 8504準拠)されています。下記の表を参考にして対応してください。
| WBGT | 指針 | 対応の目安 |
| 31以上 | 運動原則中止 | 皮膚から熱が逃げず危険。特別な場合を除き運動中止 |
| 28~30 | 厳重警戒 | 激しい運動は中止、積極的な休憩と水分補給が必要 |
| 25~27 | 警戒 | 30分ごとに休憩、水分補給。体力のない人は運動制限 |
| 21~24 | 注意 | 熱中症の兆候に注意。運動合間の水分補給を積極的に |
| ~20以下 | ほぼ安全 | 通常は安全だが水分補給は必須。油断せず注意を継続 |


熱中症を疑った場合の対応
- 初期評価
まずは状態把握として以下を確認します。
・意識の有無
・呼吸、脈拍、体温、顔色
- 意識がある場合の対処
下記のように冷却と安静を実施して経過を観察します。
・涼しい場所で安静
・剣道具を外す
・頸部・腋窩・鼠径部を冷却
・水分補給
- 意識障害がある場合の対処
以下の緊急対応を実行します。
・直ちに救急要請
・搬送前から積極的に冷却
水分補給
日常的な水分補給では以下の注意が必要です。
- 予防
・こまめな水分・塩分補給
・体重減少は2%以内に抑える
・水のみの過剰摂取は低ナトリウム血症のリスクがある
・スポーツドリンクは適量使用
※経口補水液は原則として治療目的
- 治療
熱中症発症時には、ナトリウム濃度が高く、吸収が速いため経口補水液が有効です。
(出典:熱中症ガイドライン2024)まずは状態把握として以下を確認します。
まとめ
熱中症は適切な対策により発症や重症化を予防することが可能な疾患です。しかし、知識不足や判断の遅れにより、毎年重大事故が発生しています。
剣道を安全に継続するために、正しい知識と判断力を身につけ、事故の未然防止に努めましょう。
神奈川県剣道連盟 医療・安全委員会 森 俊樹

